かがやきロッジ  

撮影:谷川ヒロシ/トロロスタジオ

◇date 2017/11
◇所在 岐阜県岐南町
◇設計 パトラック/安宅研太郎+3916/池田聖太
◇構造 木下洋介構造計画/木下洋介、鎮西宏
◇温熱環境 微気候デザイン研究所/清水敬示
◇設備(実施設計) ビームス・デザイン・コンサルタント/石井宏侑
◇外構 プランタゴ/田瀬理夫

◇施工 雛屋建築社/石田絵利奈
◇外構 富士植木

・敷地面積:1,894.23m2
・建築面積:417.91m2
・延床面積:689.02m2

在宅医療専門のクリニックの本拠地施設で、メインの機能は医師や看護師、事務スタッフの執務するステーションである。

しかし、それはこの施設の1/3ほどに過ぎず、残りは「+α」に充てられている。「在宅医療は、将来的には地域住人や元患者家族、他分野の専門家とともに協力していく形でないと立ちいかなくなる」。そういった未来を見据え「在宅医療・看護のステーション」なだけでなく、「町の保健室」であり、患者さんが外出する「目的地」であり、患者家族のための「相談室」、他職種のひとの「コワーキングスペース」、国内外の研修や視察を受け入れる「学校」でもある。お祭りやバーベキュー、音楽会や展覧会も行い、最近では「子ども食堂」も盛況である。

こういった活動を積極的に受け止めるために「+α」のスペースは構想された。この施設では、クリニックのスタッフ以外の地域の方や患者、家族、研修に来た医師や学生などが同時に共存している。そのため設計では、それぞれの人たちがこの場所に来て、思い思いの活動が実現できること、それとともに直接関わりのない地域の人や子供であっても「自分がここに居てもいい」と思える空間づくりを目指した。空間のバリエーション、つながり方、距離感を注意深くデザインしている。1階の「リビング」という広場のような空間の周りに、座敷やニッチ状のソファ、小部屋、大きなキッチン、事務室が取り巻く。2階には、研修や宿泊にも利用できる、大小4つの部屋が吹き抜けを介して垣間見える。また外部にもテラスやベンチなどが点在し、屋内外に様々な活動を支える大小の居場所があり、一望される。どの空間も、その空間単体ではなく、隣接する空間とのつながりによって特徴づけられていく。そういう構成が、自分の存在が全体の中で相対化される感覚を生み「ここに居てもよい」という感覚に近づくのではないかと考えている。

敷地は岐阜県岐南町の木曽川に近い平坦な土地で、洪水時に2.0m〜2.5mほど水没する可能性ある。その対策として1FLをGLから1m上げ、1階をRC壁式構造、2階の床組み以上を在来軸組木造(工期短縮とコスト削減の両方に効果があった)とした混合構造としている。また床下に水の蓄熱層(1階が厚90ミリ、2階が厚45ミリ)を設置し、GLから1m上がった1階の床下を空調スペースとして、家庭用のエアコンから冬は温風、夏は冷風を吹いてアクアレイヤーに蓄熱する。床からの輻射によってマイルドで快適な温熱環境を形成している。夏は床下の冷気をファンで2F天井レベルから吹き出し、冬は天井付近の暖気を床下に、中間期は南北の開口による通風とファンによる床下を含めた空気の循環で快適さを保っている。

在宅医療では、寝たきりでも笑顔を浮かべた「健康的」な方がいる。一方地域には、病気でなくても孤独・不機嫌・いきがいがない・自分を大事にできない・居場所がないなどの「不健康」を抱える人たちが多くいて、健康/不健康の定義は大きく揺らいでいる。かがやきロッジでの語り合いや様々な活動は、本人のいきがいなどを生み出し、個人の病気にとどまらない不健康を回復させるプロセスにもつながっており、従来の医療者の治療や処方では成しえない「あたらしい健康」を支える生態系を地域に生み出しはじめている。そのような「新しい医療」の場が、「+α」の空間をもった新しい医療建築の中から生まれてきていることが、この建築の価値ではないかと考えている。

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